“We are the Champion” シャンゼリゼはフレディ・マーキュリーの歌声と、100万人の群衆で埋め尽くされた。
はじまりはマルセイユだった。6月12日、対南アフリカ戦前半26分、フランスは突然のアクシデントで、フランス・リーグ2年連続得点王のギバルシュを左膝靱帯損傷で失った。これがフランスの、栄光への試練の始まりであった。伝統のシャンパンサッカーを捨て守備重視のチームに変身した、ジャッケ監督率いる母国チームに懐疑的なサポーターに希望を与えた先制弾は、前半34分、ジダンの左CKに頭であわせたデュガリーから生まれた。批判を受けながら代表入りした彼にとって、自らの価値を証明した1点だった。オウンゴールと終了間際のアンリのとどめのゴールで、3対0で南アフリカを退け、トルシエ監督の出鼻をくじいたフランスは、舞台をサンドニに移した。
6日後、サウジアラビアと対戦したフランスは20歳FWコンビ、アンリの2発とトレセゲ、そしてリザラズのゴールで4:0と快勝し、1次リーグ突破を決めた。しかし、勝利の代償はあまりにも大きすぎた。調子の戻ったFWデュガリーが右膝を負傷し、代替不能なゲームメーカーのジダンを一発退場で失った。またも試練がフランスにふりかかった。ジダンは2試合、デュガリーはその後決勝戦まで戦線を離脱した。
6月24日、リヨンに移ったフランスは、ラウドルップ兄弟率いるデンマークと対戦した。ジャッケ監督は決勝トーナメントの初戦をにらみ、出場停止処分を受けている司令塔ジダンの他に、警告を受けていたMFデシャン、DFブランとリザラスの主力3人を温存し、ゲームに望んだ。1:1でむかえた後半11分、試合を決めたのは、左CKからゴール前の混戦を制したプティ、約20メートルの豪快なミドルシュートだった。結局2:1、初の3連勝で3大会ぶり5度目の決勝トーナメント進出に花を添えたフランスに、初めての幸運が舞い込んだ。Death組と呼ばれた激戦区D組でパラグアイがナイジェリアを3対1で破り決勝トーナメント進出、よってスペインがまさかの予選落ちとなったのだ。これでベスト8をかけて戦う相手はスペインではなくパラグアイに決まった。そう、日本にアルゼンチンを売ったと叩かれた、あのチラベルトがゴールを守るパラグアイだ。誰もが組み合わせの幸運を喜んだ。スペインでなくてよかったと・・・。
6月28日、フェリックス・ボラール・スタジアム。悪夢のようだった。ジダン抜きの2試合目、フランスの前に立ちはだかったホセ・ルイス・チラベルトの壁は厚く、大きかった。前半15分、MFディオメドの左足のシュートは右手ではじかれ、後半9分にはDFデザイーのヘディングシュートも横っ飛びでおさえられた。90分では決着がつかず、ゴールデン方式の延長戦にもつれ込んだ。攻めに攻めながらも、チラベルトの壁はなかなか割れず、誰もがPK戦を思い描いていた。そして、パラグアイ有利かと・・・。延長後半8分、開催国の執念とジダンの思いがチラベルトの右腋をかすめた。右サイドからMFピレスのクロスにFWトレセゲが頭で合わせ、DFブランの右足から放たれた弾丸シュートが、113分の死闘にリオドをうつゴールデンゴールとなった。スタジアムは優勝したかの様な騒ぎだった。ジャッケがジダンがピッチになだれ込み、歓喜の輪の中に入った。チラベルトは2失点でフランス去った。準々決勝の相手は、過去W杯1勝2敗と分が悪いイタリアだが、フランスには何か奇跡の予感さえ感じられた。
7月3日、サンドニ。ジダンが戻って意気揚々とするフランス。一方、イタリアにとって8年前の7月3日は忘れられない日であった。特にR.バッジョにとって・・・。試合は予想通りの接戦であった。司令塔ジダンを中心に終始攻撃的なプレーを展開するフランスに対し、イタリアは主将マルディーニを中心に評判通り鉄壁のディフェンスを繰り広げた。ジョルカエフがカランブーがプティがジダンが決定的なチャンスを掴むが、鍵のかかったゴールをこじ開けることは出来なかった。一方イタリアは、最後まで実力を発揮出来ないままピッチを去ったデル・ピエロに替わり、後半22分、ロベルト・バッジョが登場した。またしても90分間では決着がつかず、2試合続けての延長となった。延長に入るとフランスが一方的にゲームを進めたが、バッジョの攻撃は徐々に危険度を増した。そして延長前半11分、アルベルティーニからのクロスに走り込み、ゴール前でフリーになったバッジョの右足から放たれたボレーシュートがGKバルデスを抜いた瞬間、スタジアムは凍りついた。が、ボールはわずかに左にそれた。フランスはサッカーの神様に護られていた。そして、そのツキを掴んだままPK戦へと移った。フランスの1番手ジダンがあっさり決め、イタリアはバッジョを送った。4年前の悪夢などみじんも感じさせずに、ゆっくりとそして正確に決めた。2番手のリザラズ、アルベルティーニ共にゴールキーパーに阻まれた。トレセゲ、コスタクルタ、アンリ、ヴィエリがそれぞれ決め、スコアは3:3。フランス5人目のブランのシュートはゴールネットを揺らし、全てをGKバルテスに託した。7万7千人の大観衆が見守る中、イタリア5人目ディビアジョがPKに挑んだ。。全ての思いが託されたボールは、無情にもクロスバーに跳ね返された。この瞬間、フランスは4度目の準決勝進出を決め、イタリアは3大会連続のPK戦敗退が決定した。勝利の女神はまたしてもバッジョにそっぽを向いた。