教育講演

「ヨーロッパの核医学事情」

 慶應義塾大学医学部 講師   橋本 順

(1) 欧州の医療事情と心臓核医学の現状

欧州諸国の医療状況は国によって大きく異なる。欧州の心臓核医学の現状を調査する目的で、イギリス、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、スイスの医師や製薬会社に対してアンケート調査を施行した。比較のために日本のデータも調査した。

 核医学施設数は日本、ドイツが1200を超え、日本の核医学検査数は総数、人口あたりの数とも欧州諸国に比較してきわめて多かった。逆にイギリスでは施設数、検査件数とも少なかった。欧州のなかではドイツ、イタリアが人口あたりの核医学検査件数が多かった。

 各国における心筋血流製剤の使用割合を調査した。Tlの使用割合が多い日本に比較して欧州ではTc標識心筋血流製剤がよく用いられるが、例外的にフランスではTlの使用割合が高かった。Tc標識心筋血流製剤については、イギリス、スペインではtetrofosminが、ドイツではMIBIが比較的よく使用されており、イタリアではほぼ同等の使用割合であった。

 検査費用については日本が高価でドイツは比較的安価であり、他の欧州諸国ではそれらの間に入っていた。日本と比較して欧州諸国では核医学検査の費用が他の検査方法に比較して割安であることがわかった。

 血流製剤以外の心筋製剤に関しては、欧州では日常臨床で使用可能な脂肪酸代謝イメージング製剤はなく、MIBGによる心臓交感神経機能評価も行われはするものきわめて少ないことが判明した。ポジトロン核種であるFDGの商業ベースでの供給はよく行われている。

 欧州諸国では負荷ならびに負荷心筋血流シンチグラムの読影は核医学医主体で行われることが多く、負荷方法としてはアデノシン負荷がよく用いられる。

 

(2) 心臓PET:高解像度装置と新しいトレーサを用いての検討

Hammersmith病院にはSiemens社製の最新の超高分解能PET装置がはいっており、これを利用して心内膜側、心外膜側の心筋血流の絶対値を別々に定量する試みが行われている。大動脈弁狭窄症により左室肥大を有する症例において、弁置換術前後で内膜側と外膜側の血流がどのように変化するかがすでに検討されている。

 心臓交感神経機能を検査するPET用トレーサとしてCGPならびにMHEDが用いられており、Brugada症候群などの心室性不整脈症例での局所心臓交感神経機能の定量評価などが行われている。

 

(3) 心電図同期PET/SPECT用の新しいソフトウェア

ドイツのミュンスター大学において開発が進められている心電図同期心筋PET/SPECT用の解析ソフトウエアは、QGSをはじめとする従来の多くの解析ソフトとは心筋輪郭の抽出方法や心臓以外の集積の除去方法などが全く異なった斬新なものなので紹介したい。

 

 もどる