「これからの医療と経済」
−医療の質の向上と効率化に向けて−
東芝メディカル株式会社
経営企画部 羽田由利子
保険財政が逼迫しているにもかかわらず、医療制度の抜本改革が先送りされたまま、今年4月からは診療報酬が改定され、一方では介護保険制度がスタートします。わが国の今後の急速な高齢化などによる医療費の増加を考えると、医療制度の改革は避けて通れない課題であります。
厚生省は、医療制度の抜本改革は、「平成12年度から順次実施することとし、検討に日時を要する事項については基本的には平成14年度からの実施を目指して検討を進める(医療保険福祉審議会H12.1.31)」と表明しています。
平成12年度の診療報酬改定については、「医療提供体制の見直し(第四次医療法改正案:一般病床と療養病床に区分)も踏まえて、医療の質の向上と効率化を図るため、診療報酬体系見直しの第一歩として、これまで以上の規模で合理化を行い、医療の質を高めるために必要度の高い分野に配分する」との基本方針を挙げており、抜本改革は徐々にではありますが、進展をみせております。
新たな医療提供体制と医療機関での保険収入の新たな枠組みの創設は、私ども企業にとっても、取り扱う検査・画像診断・治療等各分野での製品開発や市場創造に大きく影響することは、いうまでもありません。わが国の医療は、各種関連法規の規制と、同時に多様な制度が係わり構成されています。多くの医療機器・システムが年々その性能や機能を高度化し、医療での有効性を発揮するには、それらの評価が公の場で行わなければ導入することはできません。
私どもは、平成10年度の診療報酬改定を機に、(社)日本画像医療システム工業会(JIRA)経済評価委員会の活動を通して、保険の仕組みや制度を研究し、「画像診断領域」に関する改定の問題点を必要の都度、業界要望書や意見書として関係省庁等へ提起してまいりました。
現行の診療報酬体系では、「技術」(診断料、撮影料、加算)と「もの」(造影剤、フィルム)の評価が原則となっています。診療報酬は、個々の医療行為に対する対価であり、医療機関の人件費、維持管理費、投資的経費を直接的に保障しているものではありません。私どもが特に、何度も提起し続けている「保守・維持・管理・廃棄等のコスト評価」については、真剣な論議が不足しているように思われます。一例として「放射線部門における機器管理」に伴う要コスト計上となる事項を下記に挙げてみました。
・放射線防護及び申請等に係わる費用
・放射性物質の管理に係わる費用
・患者及び医療従事者に対する被曝対策費用
・廃棄物処理法に伴うマニフェスト管理と各種廃棄物対策費
・保守管理や修理に伴う維持管理対策費及び外部委託諸経費
・電子媒体保存に伴う設備管理費
・診療録管理体制に係わる費用
・患者データ保護のための各種対応費
・諸記録・管理マネジメントに係わる費用
・院内及び医療機器本体に関係する感染対策費
・医療事故防止のための費用及び医療事故発生後の対応費用
・医療訴訟対策費
・総合的原価償却費
・各種トラブル防止費及び各種トラブル対応費
・Y2K(2000年)等問題に対処すべき機器・システム対応費
・全体に関する総合的安全体制整備費
等が考えられます。
果たしてこれらの費用は、現行の技術料にて的確な評価となっているでしょうか? 昨年6月に実施された「医療経済実態調査」では、医薬品については薬剤管理コストの中で、購入管理・保管管理・搬送管理、消費管理・廃棄物処理費・スペースコスト・設備コスト・在庫管理金利負担額・委託費・人件費等、詳細に調査され、診療報酬上評価されるようですが、画像診断機器については委託費と原価償却費にての調査のみで、項目の詳細は極めて曖昧な状況です。
今後「技術」はEBMやクリティカル・パスにより、より「質」に整合された正確な評価方法に体系化され、「もの」はよりその性能や有効性に着目した評価体系に衣更えしていくと考えられます。その中で、医療の高度化と品質の維持・確保を担保する上で、第三の診療報酬とも言える「関連間接コスト」をどう位置づけ評価するかが重要な課題となってきています。
質の高いサービスと安全性が担保された医療のための必要不可欠な投資費用の評価は、保険医療機関等の再生産を可能とさせる上で、その評価方法を新たに考える時期に来ているのではないでしょうか。
「21世紀の新たな保険制度改革」は、まだまだ多くの課題を抱えてのスタートです。今後の動向に十分留意し、さまざまな立場から、積極的にその議論の中に参画していこうではありませんか。
((社)日本画像医療システム工業会・企画調査部会経済評価委員会副委員長)
以上